高度生殖医療(当院の新技術紹介)

体外受精について

1978年、世界で初めて体外受精-胚移植による妊娠・分娩に成功して以来、それに関連した高度な医療技術は急速な進歩を遂げてきました。この体外で卵子や受精卵(胚)を操作する生殖医療技術を高度生殖医療(Assisted Reproduction Technology:ART)と呼んでいます。

ARTの適応基準

ARTを行う基準は大きく分けて5つあります。
1卵管性不妊・・・
癒着などが原因で卵管がつまっていると、精子と卵が出会うことができません。

2男性不妊・・・・
精子の数が少ない人や、運動率の悪い人、奇形率の高い人は場合によってARTが必要となります。

3子宮内膜症・・・
全ての人にARTが適応という訳ではありません。

4免疫性不妊・・・
精子に対する抗体が体の中にできてしまうと、受精を妨げる原因になります。

5原因不明不妊・・
一般不妊治療(AIHなど)を多周期施行しても妊娠に至らない場合。
半分近くが原因不明だと言われています。

どのようなことをしていくの?

体外受精-胚移植は大きく分けて5つの流れからなります。
1卵巣刺激・・・・・・
ホルモン補充などにより卵を作っていきます。

2採卵・・・・・・・・
成熟した卵子を体に取り出します。

3媒精or 顕微授精・・・
取り出した卵子と精子をかけあわせて受精させます。

4胚移植・・・・・・・
受精した胚を体の中に戻します

5黄体管理・・・・・・
子宮の内膜を厚くさせて着床しやすい条件を作り、流産しにくい条件を作っていきます。


当院の体外受精の特徴

卵巣刺激(調節卵巣刺激)

原則的にはロング法を、40歳以上で卵巣機能が低下している場合はアンタゴニスト法を行っています。また、自然周期もおこなっています

採卵について

卵巣には直径2cm弱の卵胞という袋ができています。この袋の中に卵胞液という液体と卵子が入っています。その卵胞に針を刺して吸引していくのが採卵です。
無麻酔で行っている所も多いですが、当院では静脈麻酔下で行っています。
また、針は比較的細い19G、20Gを使用し痛みを最小限にしています。


体外受精について

当クリニックでは培養環境を最適化した培養室、最新鋭の医療設備で以って妊娠率の向上に努めています。受精の方法にはコンベンショナル法(媒精法)と顕微授精法の2種類があります。


(1)コンベンショナル法

コンベンショナル法(媒精法)とは精子と卵子を同じ培養液中で培養し、受精を行わせる方法です。
十分量の精子が必要で、調整した後の良好運動精子数が100万以上だった場合に行います。
当院ではswim up down法によって運動性の高い精子を集め、そのあと卵子1個につき精子10万匹をふりかけます。


(2)顕微授精(ICSI)

精液検査による検査結果で精子が少なかった場合や、受精障害があると診断された場合、さらに無精子症で精巣精子を使用する場合(TESE-ICSI)に顕微授精を行います。また最近では、精子を拡大して観察し、より質の高い精子を選ぶIMSIも行われています。 当院ではピエゾ法によって精子を卵へ注入します。この方法を使って受精することにより、卵へのダメージが大幅に軽減されます。


従来法

通常のICSI法では鋭い針を卵に強く押し付けて穴を開けます。そのため、卵へのダメージが大きくなります。


ピエゾ法

ピエゾ法では細かい振動を針に与えることで卵に穴を開けます。そのため、卵に強い力を加えなくても簡単に穴が開きます。


精巣精子を用いた顕微授精(TESE-ICSI)

精液中に精子が見当たらない場合などに、外科的に精巣から精子を回収して(TESE)顕微授精に利用することができます。当院では、無精子症の原因をホルモン検査により閉塞性か非閉塞性かを判断し、閉塞性の場合は当クリニックにて簡易TESE手術を行います。非閉塞性の場合は、精巣の中でもより精子がありそうな箇所を顕微鏡で詳しく見ながら行うため(MD-TESEといいます)、専門の機器を配備する大阪大学にて行っています。どちらも当クリニックで男性不妊外来を担当している先生方が執刀します。簡易TESEは局部麻酔で行うため日帰りになりますが、MD-TESEの場合は全身麻酔を行ないますので2〜3日程の入院が必要になります。採取した組織は顕微鏡下で精子の有無を確認したあと、数回分に分けて凍結保存します。


IMSI(Intracytoplasmic morphologically selected sperm injection)とは

超高倍率で精子の形態を観察し、精子を選択して顕微授精を行う新技術です。従来の顕微授精(ICSI)では、精子を400倍に拡大し運動性と頭部の形態を観察し、選択していました。しかし、400倍では微細な精子の構造は良く分かりません。
精子頭部に形態異常のある精子を用いての顕微授精では妊娠率の低下や、流産率が高くなるという報告があり、できるだけ形態の正常な精子を選別することが重要であるといわれています。IMSIは10000倍まで拡大することができます。つまり、IMSIをおこなうことで、運動性に加え、精子頭部の小さな空胞を見つけることまで可能であり、形のよいとされていた精子の中からより優れた精子を特定し顕微授精をおこなうことができるのです。

IMSI

OosightTM Imaging System

当院では、卵子の紡錘体の位置を確認できる機器「OosightTM Imaging System」を導入しています。紡錘体は、染色体の分裂や核の分裂に重要な役割を果たしています。つまり、紡錘体に傷がつくと受精卵に悪い影響を与えかねません。一般的に紡錘体は第一極体のそばにあると考えられていましたが、実際には第一極体より約30度以上離れているものが卵子の約30%もあることがわかってきました。卵子の内部構造を確認し、顕微授精をおこなうことで、受精の際の安全性を高めることができ妊娠率の上昇へとつながるのです。


(3)胚の培養

培養は当院内にあるクリーンルームという清潔な培養室で培養士が行います。
受精すると、胚は下の写真の様に成長していきます。

受精20時間後
受精卵
受精1日後
2細胞期
受精2日後
4細胞期
受精3日後
8細胞期

受精4日後
桑実期
受精5日後
胚盤胞
受精5〜6日後
脱出胚盤胞
受精5〜6日後
孵化胚盤胞

受精してから2日目で4分割、3日目で8分割ほどになっているのが理想的ですが、すべての胚がこのような経過をたどるわけではありません。途中で成長が止まってしまう胚もあります。移植ではなるべく理想に近い成長を遂げた胚を選択します。また、成長が少し遅い胚でも、子宮に戻すと改善されることもあります。

(4)移植について

当院では子宮内移植と卵管内移植の2つの方法で移植を行っています。また、着床しやすくするためにリンパ球注入や、アシステッドハッチングを行い少しでも改善される方法を試みています。


子宮内移植

グレードの良い胚を選んで、アシステッドハッチングした後、その胚を細くて柔らかい管の中に入れ、子宮内へ注入します。


卵管内移植

初期胚の生育場所である卵管内へ移植する方法です。子宮鏡下と腹腔鏡下がありますが、最近では主には浸襲性が小さい子宮鏡下で行っています。



リンパ球注入

移植日の約2日前に患者さんの血液中よりリンパ球を分離し、子宮内に注入します。子宮内で着床因子が誘導され、胚が着床しやすい環境が作られます。


アシステッドハッチング(AHA)

胚は透明帯というたんぱく質の膜に守られています。アシステッドハッチングとは胚が透明帯から脱出するのを補助するために、透明帯の一部を薄く切開する技術です。凍結融解胚は透明帯が硬化しているので特に必要になります。当院ではレーザー法(透明帯部分にレーザーを照射して溶かす方法)によりAHAを行っています。従来行われていた機械的方法や科学的方法に比べて、操作が簡単で、時間もかからないため、胚へのダメージが少なくて済みます。




単一胚移植(Single Embryo Transfer; SET)について

ARTでは受精胚の複数個移植により多胎妊娠率が高いことから、2008年に日本産婦人科学会生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解が発表され、単一胚移植が推進されています。
http://www.jsog.or.jp/about_us/view/html/kaikoku/H20_4_tataininshin.html

(5)融解胚移植について

融解胚移植とは、体外受精や顕微授精でできた胚(受精卵)を凍結保存しておき、採卵した周期とは別な周期に融解して子宮内に移植する方法です。凍結胚移植で妊娠・分娩した児の身体発育や精神発育は、自然妊娠児との間に差はないと報告されています。


子宮内移植

グレードの良い胚を選んで、アシステッドハッチングした後、その胚を細くて柔らかい管の中に入れ、子宮内へ注入します。


胚凍結をする利点
  1. 移植しきれなかった余剰胚を無駄にせず、何回も採卵を繰り返す必要がありません。
  2. 子宮内の環境が整った周期を選んで戻せるので、着床率が高くなります。
  3. 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を予防できます

黄体管理

凍結胚を戻すときは、自然周期に排卵を起こしておいて戻す方法と、排卵を起こさずに卵胞ホルモン(エストロゲン)を投与することで子宮内膜を整えたホルモン補充周期(HRT)に戻す方法があります。


凍結方法

近年開発されたガラス化凍結法によりほとんどの胚がダメージなく元の状態に戻るようになりました。 ガラス化凍結法では、耐凍剤を含んだ保存液に胚を浸したあと、スティックの表面に乗せて液体窒素内に保存します